カンボジアのまさと(masato_ogiwara)です。
11月15日から20日まで千葉市でアジアソフトテニス選手権が開催され、僕はカンボジアチームのコーチとしてこの大会に参加しました。
最終日には約4,000人オーバーの観客が駆けつけるなど、ソフトテニスの競技が持つ国内での人気レベルの高さを感じました。
【アジアソフトテニス選手権男子国別対抗戦】
日本代表優勝の瞬間 pic.twitter.com/1HsyHv5nZl
— 荻原雅斗@カンボジア (@masato_ogiwara) 2016年11月20日
今回は僕のブログを見てくださっている方、ツイッター、フェイスブックを見てくださっている方もたくさん来ており、多くの方が声をかけてくれました。
中には実際にカンボジアチームへラケットやボールなどのご支援してくださっている方、実際にカンボジアへ足を運んでくださった方もおり、本当に多くの方がカンボジアチームの応援をしてくれたおかげで、日本開催であることがアウェーではなく、ホームであると感じるほど僕たちカンボジアチームにとって良い流れがありました。
しかし、僕たちカンボジアチームは最終日の国別対抗戦で、信じられない選択をせざるを得ませんでした。
わざと負けるという選択
今回このことをブログに書くどうか本当に悩みました。
しかし、カンボジアチームのことを応援してくれるすべての人に、僕から直接説明ができなかったので、今回はこのブログを通して、なぜこんなことが起きてしまったのかをお伝えしたいと思ったのと、発展途上国へのスポーツの普及には、日本人では想像もできないようなことがあるということを知ってもらえるきっかけにもなると思い、ブログに書くことを決めました。
僕たちカンボジアチーム男子は、国別対抗戦で3番だったので、一回戦はPAK(パキスタン)と試合をして、勝ったら今回金メダルを総ナメしたJPN(日本)とやるという予定でした。
僕は日本開催のこのアジア選手権で、世界トップレベルである日本と試合ができることは、今までずっと楽しみにしていたことであり、僕以上に彼らが楽しみにしていました。
カンボジア監督が出た意外な一言
そんな中、カンボジアの監督が僕に言ったのは予想外の一言でした。
「パキスタンにわざと負けてコンソレーションの方で勝つ」
ということでした。
コンソレーションというのは、ソフトテニスの場合にはまだまだ世界への普及がされていないということもあって、一回戦で負けてしまった国が一回でも多く試合をするためにコンソレーショントーナメントを用意してあります。
このコンソレーションでも3位までに入賞すれば、メダルをゲットすることができます。
僕は最初意味がわからず、監督と揉めました。
多くの応援してくださっている方が、カンボジアと日本の対戦を楽しみにしてくれている中で、日本とやるチャンスがあるにもかかわらず、わざと負けるということに何の意味あるのか理解できませんでした。
応援してくれる方への裏切り
実際にカンボジアチームを見ようとコート後ろまで来てくださった方たちは知っていると思いますが、僕たちカンボジアチームは一回戦では、無気力試合のようなミス連発の試合でパキスタンにわざと負けました。
最初は他の海外チームの試合よりも少しだけ多かった観客の人も、彼らの無気力試合を見て呆れてしまい、どんどん去っていってしまいました。
中には韓国チームなどの強豪もやっている中で、あえてカンボジアチームの試合を見ようとビデオ撮影をしてくださっている人もいました。
試合中には、
「日本人が指導していてこのレベルじゃあひどいね」
とか、
「カンボジアの選手ひどくない?」
とか、
「見てもつまんないから別の試合見に行こう」
という声が聞こえて来て、とても悲しい気持ちになりました。
僕たちが背負っているものはカンボジアという国だけでなく、それ以外にも、他の海外チームにはいないような応援してくれる人がいることであったので、このような無気力試合をすることは、その人たちを裏切る行為であったと思います。
そう思うと応援してくださる皆様に申し訳なく、本当に心が痛くなりました。
活動を継続するためにはやむを得ない選択だった
僕たちカンボジアチームはまだ連盟ができてから2年弱、しっかりと活動を始めて活動をするようになったのは僕が関わりだした約1年半前からになります。
そのため、最近ではようやくカンボジア国内で「ソフトテニス」という言葉が、前よりもほんの少しだけ聞かれるようにはなりましたが、まだまだ人気スポーツとは程遠いものです。
カンボジアは周知の通り、つい20数年まえに内戦が終わりを迎え、まだまだスポーツという文化自体が日本のように根付いていません。
そんなスポーツができることが平和の象徴でもあるとされている中で、彼らがカンボジアにもともとなかった、普及し始めたばかりのソフトテニスを続けていくためには、とにかくどんな形でも目に見える結果が必要でした。
今回監督をはじめ、選手も僕も日本と対戦できることをとても楽しみにしていました。
僕らが一回戦のパキスタンを倒して日本と試合をするということは、彼らにとっては夢にまで見た対戦であり、今後のモチベーションにもなる一戦になることは間違いありませんでした。
しかし、日本と対戦をすることということは、コンソレーションの方には出られないということになるので、メダルをゲットするチャンスが無くなります。
カンボジアはお金をかけて国際大会へ出場し、メダルを獲得できない競技というのは、国からの支援金が減り、どんどん活動が縮小していってしまいます。
特にソフトテニスのような、カンボジアでは始まったばかりの競技はスポンサー等も集められないので、国からの援助が得られないということは、競技を辞めるという選択に追いやられてしまいます。
そのため彼らが今後もソフトテニスを続けて行くためには、今目の前にある今後の成長や経験ということよりも、活動を続けて行くために必要なことを選んでいくしかありませんでした。
その結果が、今回のパキスタン戦での無気力試合でした。
会場では「スポーツマンシップに反する」ということや、「自国のことばかりで主催者側の思いや他国のことを考えていない」という厳しいご意見も多くいただきましたが、 彼らが大好きなソフトテニスを続けるためにはそうするしかありませんでした。
彼らにとって「いま」一番大切なことを優先する
この選択はカンボジアチームの監督、選手全員にとって苦渋の選択でした。
毎日ソフトテニスを練習している彼らにとって、日本と試合ができるまたとないチャンスだったからです。
しかしこれは、普及をしていない発展途上国ならではの問題であり、外国人である僕が想いを突き通すことでは無いと思い、判断を彼らに任せることにしました。
そしてその結果、チームメイト全員で将来のカンボジアソフトテニスチームを考えて話し合って、カンボジア人である彼らがコンソレーションで頑張ることを決断したので僕もそれに納得をしました。
一番辛い思いをしていたのは、世界一の日本チームと試合がしたいと感じながら無気力試合をしていた選手本人であって僕ではありません。
スポーツマンシップに反することは全員が理解していましたが、それでも僕たちがカンボジアでソフトテニスを続けるためには、これが最良の選択であり、こうするしかなかったと思います。
選手たちの気持ちを考えると非常に残念ですが、結果的に彼らはコンソレーショントーナメントで決勝まで勝ち上がり銀メダルを獲得することができ、カンボジアへ結果を持ち帰ることができました。
日本でプレーをしている人は「コンソレーションで勝っても意味ない」とか、「本戦こそ全て」と感じると思いますが、スポーツ振興がまだまだのカンボジアでは、コンソレーショントーナメントでも勝ってメダルをゲットするということは、国への競技拡大・普及をアピールするための材料になり、活動を大きくしていくための源になります。
言い訳に聞こえてしまうかもしれませんが、これが今回のカンボジアチームの事情でした。
もちろん賛否はあると思いますが、僕が実際に現地に住んで世界への普及をやっている中で起こった出来事なので、今後ソフトテニスの無い国への普及をしたい!という同じ志を持つ人の参考になれば嬉しいです。
今回カンボジアチームの試合を楽しみにして会場まで来てくださった皆様には、本当に残念な思いをさせてしまい大変申し訳ありませんでした。
まだまだカンボジアに完全に根付いていない競技だからこそ、発展途上国だからこそ、僕たち日本人では想像し得ないことが起こることを改めて感じました。
この活動をしていて日本人として思うことはいくつもありますが、僕が一緒に活動させてもらっている国はカンボジアなので、外国人である僕が彼らを変えようとするのではなく、彼らのやり方、考え方でどのようにして勝てるようにするのかを今後はもっと考えながらまた頑張っていきたいと思います。
会場でお会いした皆様、ツイッター、フェイスブック等で応援メッセージやご連絡をいただいた皆様本当にありがとうございました。
これを学びして、ひと回りもふた回りも成長できるように頑張ります!